甘い回想

 










 

 

わたくしは今、自らに科した決別という戦いのさなかにおいて

懐かしい甘苦い香りを必死に思い出そうとしているのです






















 

 








 

カカシがどこからか大きな蜜柑を貰って帰ってきた。

それは文旦という名前で、


小ぶりなスイカほどもある黄色く大きな果物だった。












「でかいよね。これ。食べる?」











サスケとカカシは二人でこたつに向かい合って当たりながら、文旦を眺めていた。












「大きいな、二人で食えるのか?」

「サスケの頭くらいあるもんねえ」














カカシは文旦をすでに剥きながらサスケの頭と見比べて笑う。

サスケはちょっと怒った顔をして、カカシの脛を思い切り蹴り上げた。















「いって、なにすんの」













カカシは苦笑しながら短刀で文旦の皮を器用に剥いでいく。

黄色い皮の内側は白くてふわふわとした綿のようなもので覆われている。















「これ、なんだ?」














サスケは綿をつまみあげて不思議そうに首を傾げた。
















「さあ? でもこれ皮を砂糖漬けにするらしいよ」

「うまいのか?」

「食うみたいだから、美味いんじゃないの」


















カカシは果皮をさしたナイフを、サスケの口元に持っていく。

サスケはそれを一口かじると眉をひそめて果皮を吐き出した。

















「苦い! これなんだ!」















嫌そうに顔をしかめるサスケを見て、カカシは声を上げて笑う。

文旦は皮を剥く前は相当に大きかったのに、皮を取り去ってしまうと拍子抜けしてしまうほど小さくなった。
















「はい、半分こね」















カカシは文旦を半分に割ると、サスケに差し出す。

サスケはそれを受け取ると、一房取り出し薄皮をはいだ。


苦いような甘い香りが漂い、グレープフルーツに似た果実が顔を出す。


サスケはのどをこくりと小さく鳴らして一口口に入れた。
















「うまい」

「え? 俺のすっぱいよ?」















カカシは驚いた顔をしかめてサスケを見る。















「ほんとに美味いんだ」















疑った顔をするカカシの口に、かじった残りを放り込む。

お返しにカカシもサスケの口に果実を入れた。

















「あ、甘いね」

「う、すっぱい」

















口元を押さえるサスケをみてカカシは再び笑う。















「食べるところによって違うなんて、やだねえ」
















それからさっき半分にした実をまた半分にして交換した。















「甘くて、でも苦い妙な味だ」

「んー。でもおいしいね」

 














文旦を食べ終ると、手がべたべたしていたので、洗面所に二人で手を洗いに行った。















「サスケ、文旦の匂いが指に残っていい匂いするよ」















言われてサスケは自分の指を鼻の辺りに近づける。

















「ほんとだな」

















懐かしいような甘酸い香りにサスケはふと微笑んだ。















「あ、笑った」















カカシは珍しいものを見たような顔をしてサスケを覗き込む。















「うるさい、うすらとんかち!」















笑って、二人で手をつないで部屋に戻った。

 



















昔、家族で文旦を食べ、指の匂いを嗅いで笑ったことを、サスケはふと思い出して、

カカシと握る手に力を込めた。

 

 

 


















わたくしは今、

わたくし以外の誰もが無意味だというであろう戦いの中に身をおいております。


しかし、わたくしはどうしても力を手に入れなければいけない、


友を殺さなければいけないのです。


しかし、あの懐かしい甘苦い香りが、

鬼になろうとするわたくしを止めてくれはしまいかと、


願っているのもまた、















本当のことなのです。





End