チョッパーちゃんとサンジ君












ある日、チョッパーは思った。

サンジを自分に振り向かせたい! と。



「ナミ、ナミ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

チョッパーに呼ばれて、ナミは書いていた日誌から顔を上げた。

「あら、チョッパー。何が聞きたいの?」

ナミは隣の椅子を引いて、チョッパーに薦めながらたずねる。

「・・・あのな、すっ」

「す?」

椅子に座って、なんだかもじもじしているチョッパーに、ナミは不思議そうな顔をして話の続きを待つ。

「すっ好きな人を振り向かせるってどうすんだ?」

「・・・チョッパーが?」

「ばっバカにするなよ!」

噴出しそうになったナミを見て、真っ赤になったチョッパーは拗ねて口を尖らせる。

「ごめん。ごめん。そうねえ・・・」

ナミは顎に手を当てて、何事かを考えていたが、やがてニタリと笑った。

聞いた人間違えた。チョッパーはそう思ったが、とりあえずナミの意見を聞いてみることにした。

「ずばり、金ね」

予想はしていたが、余にも余な一言に、チョッパーはつい毒づいてしまう。

「・・・この銭ゲバ・・・」

「ああ? ・・・なんですってえええ?」

ナミの顔色が変わる。まずいと思った瞬間、チョッパーは、

「ランブル! ウオークポイント!」

脱兎のごとく逃げ出した。





ナミからやっとのことで逃げ出したチョッパーは、行くところもないので、サンジのいるキッチンに向かった。

そっと扉を開けると、サンジが忙しそうに料理を作っている最中だった。

「・・・作ってる間は来んなっつってんだろうが!」

罵声とともに、お玉をもったサンジが振り返る。

「うわ! ゴメンサンジ!」

サンジは驚いて逃げようとするチョッパーを捕まえ、頭を掴んでぐりぐりと撫でながら、

「おう。チョッパーか。てっきりルフィかと思ったぜ」

言うと、サンジは再び料理に戻る。

チョッパーはサンジが出て行けといわなかったので、しばらく後ろに立って料理を作る姿を眺めた。

「すごいぞ。サンジは何でも作れるのか?」

チョッパーは自分の頭を撫でてくれた優しい手が、忙しく動き回るのを夢中になって追う。

「おお。俺は何でも作れるぞ。すげーだろ」

「すげえな!」

目を輝かせて手元を見つめるチョッパーを、サンジは嬉しそうに笑いながら手招きする。

「おら、新作だ。味見してみな、クソうめえぜ」

やってきたチョッパーに、サンジは特別だと言って味見をさせてくれる。

それは柔らかく煮込んだ肉で、ハーブのいいにおいがふわりと香り、初めての味なのに何故か懐かしい味がした。

「うまいな! すげえぞサンジ!」

「はは、うまいか。よかった」

サンジは料理を誉めると、子供のように顔をくしゃくしゃにして笑う。

その顔を見て、チョッパーは胸が暖かくなって、それから少し悲しくなった。

「お、なんだ?」

チョッパーはサンジの頭の上によじ登ると、ぎゅうと抱きついた。

「サンジ。オレ、サンジが大好きだぞ」

「おー。俺も大好きだぞチョッパー」

両思いだ! サンジもオレのこと好きなんだ! 

チョッパーは嬉しくて走り出したくなったけれど、もう少しだけいい匂いの柔らかい髪に、触れていたいと顔を埋めた。









キッチンを出た後、チョッパーは腕を組み、何事か呟きながら歩いていた。

(サンジがオレのことをすきなのはわかった。でもサンジは浮気性だから心配だな・・・)

「お、なにやってんだチョッパー」

呼ばれて顔を上げると、ゾロが珍しく起きている。その膝でルフィが大口を開けて幸せそうに眠っていた。



「・・・恋人の浮気防止したい?」

「教えてくれ、ゾロ!」

面相臭そうに首を傾げるゾロに、チョッパーは必死な顔をして手を合わせる。

「あっはっは。ゾロに聞いてもわかんねえと思うぞ」

いつの間にか起きていたルフィは、寝転がったままチョッパーを抱きしめた。

「・・・お前はややこしくなるから寝てろ」

ゾロはそう言うと、自分の膝にルフィの頭を押し付ける。

「・・・わかんねえか・・・」

しゅんとうなだれてしまうチョッパーを見て、ゾロはしばらく考え込んでいたが、やがて大きく頷いた。

「・・・痕つけんだよ。こいつはオレのもんだって」

「・・ししし。な」

ルフィーはゾロと顔を見合わせて笑うと、自分の首筋にある赤い痕を指でトントンと突いた。

「・・・痕か! 分かったぞありがとう!!」

何かを思いついたチョッパーは、勢いよく起き上がると、キッチンに向かって駆けていった。

「・・・ゾロ? チョッパー恋人いんのか?」

「いや、聞いたことねえけどな」

ゾロとルフィが二人で首をかしげていると、キッチンのほうから聞いたこともない恐ろしい悲鳴が響いてきた。





チョッパーがキッチンに向かっていると、丁度扉が開いて、サンジが出てきた。

「・・・ランブル!」

「お、チョッパー、飯が」

できたから皆を呼んでくれとサンジが言おうとした時。

「刻蹄桜(刻蹄ロゼオ)!!」

「んげふうう!!」

サンジのハートに、チョッパーの技、刻蹄桜がクリーンヒットした。サンジはそのまま白目を剥いて床にひっくり返る。

「きゃああああ! サンジ君? 何! 敵!?」

悲鳴を聞きつけて走ってきたナミが叫ぶ。

「船長!! 謀反だ! 船医が謀反を起こしたああ!」

ウソップはぶるぶる震えながらチョッパーに向かってパチンコを構える。

「ぎゃあああ! サンジ! 医者はどこだ! オレだあああ!」

チョッパーは自分でしておいて取り乱し、その場でおろおろと頭を抱える。

「あら、コックさん? 泡を吹いてるわ。もう助からないかしら?」

ロビンはサンジが無事なことを確かめてからにこやかに笑う。

「・・・・肉は無事かああああ!」

ルフィはご飯の無事を祈りながら、サンジをすっ飛ばしてキッチンに走る。その首を捕まえて、ゾロはあきれた声を出す。

「いや、この場合心配なのはコックの無事だろ・・・」



そうしてしばらくの間、サンジの胸には見るも鮮やかなチョッパーのつけた痕がくっきりと残され、

キッチンから出てくるたびに怯えて辺りを見回すコックの姿があった・・・。



end