フルーツ
〜林檎はゾロの頭に乗ったままだよ〜







不本意ながら、二人きりになってしまった。
俺はため息をついて、目の前で眠る男に向かってゆっくり手を伸ばした。





その日立ち寄った島は果物が豊富に実っていた。

「おら、しっかり運べよ、クソ野郎ども!」

俺はナミさんとロビンちゃん以外のクルーを総動員して、果物を収穫させ船へと運ばせる。

「不思議な島ね。栗とさくらんぼが隣同士で生っているわ」

ロビンちゃんが興味深そうにそれらの果物を眺めて笑う。

さすがはグランドラインの中にある島だ。
四季が狂っているようで、同じ時期には決して味わえない果物たちが同時にたわわに実っている。
辺りには甘い匂いがたちこめ、実に料理し甲斐のある島だった。



「これで、おいしいデザート作っておくからねー!」

俺は島へ降りていったナミさんたちに声をかけて見送る。さっきルフィたちも騒ぎながら飛び出していった。

「さて、残ってるクソ野郎は・・・」

俺は新しいタバコに火を点け、いくつかの果物を抱えてクソ剣士のところへ行った。

「おい、マリモ。起きろよ」

ゾロは相変わらず指定席で胡坐をかいて眠っている。俺が声をかけたくらいでは起きるはずがない。

「・・・二人っきりなんだけどな」

手持ち無沙汰になったので、俺はとりあえず持ってきた果物をゾロの前に並べた。
よく熟した枇杷や桃や、オレンジを黙々と置いてみるが、一向に目を覚ます気配がなかったので、小ぶりの林檎をゾロの頭に乗せて、隣に座った。

よく熟したモモの皮を、少し爪を立てて剥く。甘ったるい匂いの雫が、溢れ流れて手首を伝い、床にも透明な染みを作った。

「Tシャツで良かったな」

俺はそう思いながら、肘をゆっくりと伝い流れる雫を眺めた。肘の内側のくぼみに溜まる甘い汁を舐めとろうとしたが、ふとその腕をゾロの鼻先に突き出した。

「おい、クソ剣士。モモの汁が垂れた」

そういうと、ゾロはやっと目を開けた。そして、俺の濡れた腕を見て一言、

「舐めろ」

と言う。

「は?」

意味が分からなくて聞き返すと、ゾロは

「床の上も全部。自分で舐めて綺麗にしな」

そう言って意地が悪そうに唇の端だけをゆがめて笑う。

「はっ! なにいってんだか、このクソマリモ兄さんは!!」

俺はそんなことができるかと笑い飛ばし、怒鳴ってやろうとしたが、いつもと違うゾロの視線にさらされてうまく言葉が出ない。

「早くしろよ、乾くとべたべたになるだろうが」

「・・・クソ」

覚えていろとののしる言葉も掠れてしまう。自分の濡れた腕と床を交互に見て、余の羞恥に顔が熱くなるのを感じた。

「おら、早くしろよ」

ゾロはそういうと、俺から視線を離さないまま、俺の腕を取り少しだけ舐めた。

「甘えな」

「・・っつ」

舐められた箇所から、痺れたような疼きが全身を巡った。ゾロのその行動に、逃げ場はないのだと諭される。

「おら」

ゾロは強引に俺の頭を床に押し付ける。
大きな手が、髪をさらりとなで上げる。
背中がぞくりと粟立った。
触れられて、身体はいうに及ばす、心さえ熱くなる。
ゾロはそれきり一言も言わずに、俺の髪や背中や首筋をゆるりと撫で続けた。

「・・・」

俺は観念して床に這い、落ちた果実の雫を舌でチロリと舐めた。甘ったるい味が口の中に広がって、俺は思わず泣きそうになった。

「・・・うまくできたら、ご褒美やるよ」

その言葉に、羞恥も屈辱も吹き飛んだ。俺は酔ったようにふらつく頭を抑えながら、必死で床を舐めた。

「あ、いた・・・」

床のささくれで舌を切った。俺は涙目でゾロを見上げる。

ゾロも、俺から目を離せなくなっている。
俺は視線をそらさないままで、自分の腕にゆっくりと、できるだけいやらしくみえるようにしながら何度も舌を這わせた。

「・・・全部、舐めたぜ」

血が滲んだ舌を突き出して、ゾロに見せる。

「・・おう、いい子だったな」

褒美だ、とゾロのくちびるが俺のソレに柔らかく触れる。
傷ついた舌を舐め、幾度か浅いキスを繰り返し、ゾロは俺を抱き寄せて、目の前にある枇杷を手に取った。
歯で皮を器用に剥くと、汁を一滴もこぼさずに平らげる。

「・・俺、も」

ひどくのどが渇いていた。ゾロはさっき俺が向いていたモモを手に取ると、俺の口元に押し付ける。

「ん・・」

俺は熟したモモの果実を吸いながら食んだ。顎を雫が滴り、胸を濡らす。

「・・・甘い、お前は何よりも甘くてうめえな・・・」

ゾロの唇と舌が俺の首筋や頤を優しく強く愛撫する。

「・・・あ、ゾロ・・・」

「その、熟したフルーツみたいな体で、俺を酔わせろ・・・・」

俺は耳元で囁くゾロの言葉に、ひどく身体が震えるのを感じた。

「クソ剣士、もっと俺に触れ・・・」

ゾロの手が、俺の邪魔な服を引き剥がしにかかった。



「・・・サンジって、フルーツなのか? うまいのか?」

「うぎゃあああ!」

不意にルフィの能天気な声が聞こえて、俺はゾロの体を思い切り蹴り飛ばした。

「お・・・。この・・・クソコック・・・」

俺に大事なところを蹴り飛ばされて、ゾロはひっくり返った。

「大丈夫かーゾロ。しかしサンジは甘い匂いするもんな! そうか、フルーツだったんだな!」

「・・・頼む・・・ルフィ・・・忘れてくれ・・・」

そういって俺は、とりあえず船長の体も思い切り蹴り飛ばした。





「ねえ、ウソップ。最近のルフィがサンジ君を見るあの目って・・・」

ナミが呟く。

「なにがあったかしらねえが、確実に食い物を見る目だな」

聞かないほうがいいぜえ・・・そう言うとウソップは遠い目をして笑った。





END