腹とカカシと四代目








「カカシー。お腹が空いたよー!」

任務が終わり、里に帰る途中のことだった。いつものように、あの人が騒ぎ始める。

「我慢してくださいよ。この山越えたら里ですからね!
俺なんかあんたのおかげで昨日から何も食ってないんだから!」

カカシは、修行と称して自分の荷物と四代目の分の荷物を持たされている。
身軽で暴れまわる四代目を軽くにらみつけた。

「やだ!ハラが減ったよー!あ、美味しそうなキノコがあるよ」

四代目はふらふらと歩きながら、道端に生えているピンク色のキノコを手に取った。
カカシはその手からキノコをひったくると、四代目に向かって説教をする。

「ダメです!ショッキングピンクのキノコなんか食ったらこっちがショッキングなことになりますよ!」

「・・・・・。カカシのギャグってつまんないよね。・・・・・殺してもいい?」

四代目はカカシから眼を反らすと、薄く笑いながら寒そうに体を擦る。

「じゃあ食べなさいよ!食え食え食っちまえよ!」

カカシは背負っていた荷物を放り出すと、キノコをむしりとり、四代目を捕まえて口の中に詰め込む。

「もがふががー。・・・・・煮て?カカシィ」

口にキノコを詰め込んだまま、四代目は上目遣いでカカシを見つめる。

「じ、自分でしなさいよ・・・・・」

カカシは四代目のねだる視線にひどく弱い。
どんなに腹が立っていても、彼のことをかわいいとか思ってしまうのだ。

「ええー。出来ないよー」

四代目は、もちろんそれを分かっているので、困ったようにさらにカカシを見つめた。

「・・・・・全く、あんたって人は・・・・・」

カカシは根負けして荷物の中から鍋をあさり始める。

「うわーい!早くね!早くしてね?」

「涎ふきなさいよ・・・・・」

「だってまてないもーん」

四代目は、子供のようにカカシの周りを駆け回る。カカシは、それを見て、ふと微笑む。

 




「火影さまー!!イノシシですよー!」

腹が・・・・・と四代目が言い始めてからふらりといなくなっていたエビスが、
茂みの中からひどく大きなイノシシを抱えて出てきた。

「うっわーい!エビスったらすてキングー!」

四代目は、瞳を輝かせてイノシシを見つめている。
イノシシは二抱え程もある大きさで、毛並みもつやつやと立派に光っている。

「こりゃー!エビス!甘やかすなぼけえー!」

カカシは怒りながらも、昨日から何も食べていない腹が嬉しそうに悲鳴を上げるのを感じていた。

「いいじゃないですか。ねー火影さま?」

エビスは勝ち誇った顔をしてカカシをニヤニヤと見た。
もちろん、カカシの腹がなる音もちゃんと聞こえている。

「ねー!いいじゃん!肉だよ!安心して食えるよ!」

「・・・・・、まいっかー。にくにく☆」

カカシは少し考えていたが、いそいそと背中の刀をすらりと抜いた。

「じゃ、さっそく調理いたしますね」

「・・・・・。おいエビス。おまえこれどっから捕ってきた」

解体しようとイノシシを転がしたカカシは、耳に焼き付けられている小さな焼印をみつけて、
ひどく弱弱しい声を出した。

「はい?あっちのほうからですが、なにか」

「これ、木ノシシだ・・・・・。はは。おれたち殺されちゃうぞ☆」

カカシは頭を抱えて、なみだ目を他の二人に向ける。
カカシの並々ならない様子を瞬時に理解したエビスも、耳の焼印を見て、青くなってうろたえた。

「ええー!どうしましょう!っもうぽっくりいってますよ!カカシ何とかして・・・・・」

その中で、四代目だけはわけが分からないようできょとんとしていた。

「木ノシシってなにー?」

「・・・・・」

カカシとエビスは顔を見合わせてため息をついた。

「いいですか。火影様。木ノシシというのは、木の葉の里にしかいない、非常に貴重な、イノシシです!」

エビスはサングラスを少し押し上げると、教師全として四代目に木ノシシの説明をした。

「・・・・・どうしよー!三代目に怒られちゃうよー!!」

今更ながらに四代目が騒ぎ始める。

「あんたはどうしてそう鈍いんですかー!
エビス、おまえもどうしてよく見ないんだよ!亡くなってるよ!木ノシシさーん!起きてー!」

カカシも少々錯乱気味になり、死んでいる木ノシシを何とか起こそうとがくがくと彼を揺さぶる。

「気づかなかったんだから仕方ないでしょうがー!」

エビスがほとんど泣きそうな顔で叫ぶ。

「怒られちゃうよー!火影様に怒られちゃうよー!頭ごちーんてされちゃうよー!」

「おまえも火影だろうが!」

エビスとカカシがそろって四代目に突っ込む。

「三代目怖いもーん!」

四代目は昔、三代目に怒られたときのことを思い出して、ほとんど気を失いそうになっている。
三人は取り合えず木ノシシを尻目に、三人車座になって座り込んだ。
みんな青い顔をして膝を抱えて、眼を決して合わせずに、ぶつぶつと言い訳を考えた。

「・・・・・やばくね?木ノシシって天然記念物の中でも天然中の天然だろ・・・・・」

「怒られるよねー?やばいよねー?でもお腹空いたよ?」

「あんたは本当に・・・・・」

「どうしたら良いんでしょう!そうだいっそのこと三人で食べつくしてしまえば!」

エビスの提案に、三人の顔色がパッと明るくなる。

「そうだよね!やっぱりエビスって頭いいよ!じゃ、カカシ、やって?」

純真無垢な笑顔で、カカシにカカシの刀を差し出してくる。
カカシは微笑み返しながらも、こいつ見つかったら一人で逃げる気だ・・・・・。
そう確信して、刀を取ろうとする手が震えた。

「やってって・・・・・。そういえば木ノシシって、確か三代目が術かけてなかったけ。
食ったら、イノシシになるとかならないとか」

カカシは昔聞いたうわさを思い出して、青くなる。
三人ともがっくりと首うなだれて、しばし沈黙した。 

「・・・・・全然ダメじゃん。あーあー。元はといえばさ、カカシがキノコ食っちゃダメとかいうからさー」

急に四代目が拗ねてカカシをなじり始める。

「・・・・・あんたね・・・・」

カカシはもう二の句がつなげなくて、半笑いのまま頭を抱えた。

「・・・・・とにかく、どうしましょうかね、これ」

「全くだ」

「ううぇあーん!腹が減っただけじゃないかー!なにが悪いのさー!」

とうとう切れた四代目が、大声で泣き叫び始める。
里に聞こえるだろと、エビスとカカシは四代目を羽交い絞めにして口を塞いだ。

「・・・・・毒見だな」

「・・・・・毒見ですね」

カカシは四代目の耳を塞ぎ、小声でエビスに話しかける。
エビスも反対の余地無く、力強く頷いた。

「じゃ、どうぞー☆四代目、食っちゃってくださいな☆」

カカシが木ノシシを四代目のほうに差し出す。

「うわーい!いっただきまーす!ってカカシおまえさっき呪いとか言ってなかったっけ?
そんなものを火影様に最初に食わせるとはなんて不届きものだー!」

最初は喜んだ四代目だが、カカシとエビスの思惑に気づいて、烈火のごとく怒り出した。

「っち。じゃ、じゃんけんでもするか」

「っちってカカシ・・・・・。今上司に向かって思いっきり舌打ちしたよね?」

残念そうにそっぽを向いて舌打ちしたカカシを、四代目は眼を剥いて見つめる。
しかし、カカシは彼を無視して、じゃんけんを始めるために、腕をクロスして組み、
手の間に出来た空洞の中を見る、おまじないのようなものをした。

「まったなーしー!」

「じゃーんけーんほい!」

四代目はちょき、カカシもちょき、エビスはパーを出した。

「やったー!」

とたんにカカシと四代目は力づよくガッツポーズをきめた。
エビスは頭が地面にめり込むほど首をうなだれる。

「勝ったー!しかし、四代目、その田舎ちょきださ」

「な、なんだよ!うちじゃみんなこうだもん!」

「はーいはいはい。じゃ、エビスさん、どうぞー☆」

カカシと四代目は、二人とも見たことの無い笑顔でエビスの口に木ノシシの肉を押し込んだ。

 

「どうすんのさ、カカシ。エビスが木ノシシになっちゃったじゃん」

四代目は怯えた顔で、びくびくとエビスを見た。

「胃が・・・・・。胃が痛いよ。なんか、なんかいいわけ考えなきゃ・・・・・。胃がシクシクするよう」

背を丸めて胃の辺りを押さえているカカシの、背中に一匹の木ノシシががっぷりと噛み付いている。
それは、つまり、エビスの成れの果てだった。

「いいこと考えた。エビス食っちゃおうか?」

「ブキー!!」

無邪気に言い放った四代目の尻に、エビスががっちりと噛み付く。

「エービ−スー。怒るな、咬むなー」

カカシは写輪眼をぐるぐると振る活動させて言い訳を考えるが、
頭の中はぐちゃぐちゃで考えが良くまとまらない。

「早くしてよー。カカシー。痛いよー」

エビシシと四代目が格闘しながら絶叫する。

「あーあーもう!じゃ、こうだ!
エビスが木ノシシ人間に襲われて、俺が雷切で倒して、四代目が食った。これで!」

「おおー」

「ブキ!」

これ以上ない、カカシの提案に、四代目は拍手を送り、エビスは満足そうに一声鳴いた。

 








「痛いよう。カカシ、やっぱり三代目に怒られたじゃないか!」

里に帰った三人は、もちろん言い訳など通用するはずもなく、三代目に烈火のごとくおこられ、拳をお見舞いされてし
まった。

「もう・・・・・俺の胃無くなっちゃいそうだよ・・・・・」

カカシは遠い眼をして彼方を見つめる。

「ブキィー!!」

エビスは、しばらくそのままでいろといわれて、会う人合う人に、立ち上がれないほど笑われていた。

「あ、エビス・・・・・?戻れなかったんだ・・・・・。・・・・・うん?いや・・・・・。
似合ってる、かっこいいよ・・・・・うん。ねえ、カカシ・・・・・?」

四代目は眼をぱちくりさせながら笑い、助けを求めるようにカカシのほうをみた。

「はは・・・・・そうっすね・・・・・」

今度この三人で任務が会ったら絶対に断る。カカシはそう決心していた。

 




おわり。