オカン、愛の迷子











「ゲンマさん、私こんど大阪に行くんですね」

ある日の昼下がり、ゲンマとハヤテは二人でお茶を飲んでいた。

「へえ、大阪」

行ったことないなあとゲンマは思いながらお茶を啜る。
向かいに座るハヤテは、きちんと正座して座り、両手で湯飲みを持っている。茶柱がたったと笑った。

「ですから、ゲンマさんて大阪出身でしょ? お勧めの場所とかあったら教えて欲しいんですけど」

「ん? 大阪? おれが?」

ゲンマは不思議そうな顔をしてハヤテを見る。

「そうですよ。しかも岸和田のほうですね。だからお祭り大好きなんですね」

ハヤテは何の不思議もなさそうにお茶菓子を手に取った。

「いや、おれ大阪に行ったことなんかないし・・・」

「なにいってるんですか、それ、串かつの串なんでしょ? 使用済みだから、油が染み染みなんですね」

ハヤテは饅頭を一つ平らげる。

「おいしいですよ。ゲンマさんもおひとつ」

にこりと笑ってゲンマの前に饅頭をぽんと置く。

「いや、そうじゃなくて、おれ・・・」

「なんや食べへんのかいなあ、これ、ごっつうまいでえ」

「・・・あ?」

ハヤテの口から飛び出たせりふに、ゲンマの楊枝がぽとりと落ちた。

「は、ハヤテ・・・さん?」

「って西の名探偵が言ってました」

そういうとハヤテは二個目の饅頭に手を伸ばす。

「なんだ・・? この子おかしい・・・?」

ハヤテの余の普段とのギャップに、ゲンマの頭の中はクエスチョンマークだらけになった。

「こんど、アホの坂田歩き教えてくださいね☆」

「いや、できないし」

ゲンマが即座に突っ込みを入れたのを見て、ハヤテは勝ち誇った笑みを浮かべた。

「ほら、やっぱり大阪人じゃないですか」

「いや、おれは関東うまれなんだ!」

「なにいうてんねん! ぼよよーん!! 大事なことはみんな、ジャリンコちえからおそわったんじゃろがああ!!」

そういって、ハヤテは囲んでいたちゃぶ台を思い切りひっくり返した。

「・・・わかんない。ハヤテさんがわかんないよ・・・? ゲンマは愛の迷子だよ?」

なんだかわあわあと叫びながらパニックを起こしているハヤテを見て、もうゲンマは訳が分からず涙目になっている。



「こんちわー。ハヤテちゃんと寝てるー?」

いきなり窓が開いて、混乱しているゲンマの前に薬の袋を持ったカカシが現れた。

「は? カカシ・・・さん? どしたんすか?」

「んー? ハヤテが熱出したから薬もってけって言われたんだけど・・・?」

そう言って、カカシは床を指さす。そこには真っ赤な顔をして、行き倒れているハヤテの姿があった・・・。



end. 大阪の方、本当にすいませんでした・・・。