WORLD‘S END HUMMING


 

 


一 族 で 一 番 濃 い 血 を も つ 家 系 に 生 ま れ た

才 能 が あ っ た の で こ の ま ま 誰 よ り も 強 く な っ て

長 と し て 生 き て い く だ ろ う と 思 っ て い た 矢 先 に 弟 が 出 来 た

そ こ で 俺 は 初 め て 疑 問 を 持 っ た

 

 


お前たちが欲しいのは、俺か。

血継限界を如実にあらわすこの力か。













 





「・・・・じゃあ、サスケは、わがうちは家の血を受け継いでいないかもしれないと?」

「成長せねば分かりませんが、おそらく写輪眼が発動することは難しいかと・・・・・」

「なんてことだ……」







弟が生まれた日、祝いの為に一族中が集まったその日、

一番奥の部屋で、ひっそりと会話が交わされていた。


うちはの子供は、生まれたその日に、一族と里に貢献できるか検査をされる。






「イタチには、生まれたときには写輪眼が現れていた、サスケもこれからあるいは・・・・・」

「まて、イタチ」






気配を消していたはずなのに、廊下に向かって声がかけられる。

俺は無言のまま襖を開けた。


部屋の中には、父と医師、一族の長老が向かい合って座っていた。







「今の話を聞いていたか」

「・・・・・はい」






うそをついてもすぐにばれる。

俺は居たたまれなくなって許しも得ていないのに、その場に座り込んだ。






「おお、イタチ。大きくなったなあ」






長老が眼を細めて俺を見る。

老いたが、両目に微かに写輪眼が浮いている。いくつになった。その問いに少し戸惑う。







「五歳に、なりました」

「おお、立派な忍になりつつあるの」

「おそれいります」






しばしの沈黙の後、喜色満面の笑みを浮かべた父が俺を抱上げる。






「お前がサスケの力を奪ったな。やはりお前はすばらしい、待ち望んでいた、我々の麒麟児だ!」






父に抱上げられたのは、この時、この記憶だけ。

一族が集まり、騒がしい家で、唐突に弟の泣き声が耳に響いた。否、その声だけ、聞こえた。


 































「兄さん」







呼ばれて振り向くと、サスケがニコニコと笑いながら立っていた。

手招きすると、懸命に走ってきて俺の服のすそを小さな手でしっかりと握り締める。


頭を撫でてやると、嬉しそうに擦り寄ってくる。






「今日はもう終わり?」

「うん、終わったよ」

「迎えに来たの、帰ろ」







夕暮れの道を二人で歩く。

サスケは何が楽しいのか相変わらず笑いながら、俺の周りを走り回っていた。








「兄さん、蜻蛉」







道端の草の上に、アカネヤンマが止まっている。







「眼で取って」







写輪眼のことを言っているのだろう、俺は苦笑して蜻蛉を見つめる。

無論、虫にこの力は使えない。


サスケに見えないよう指をくるくる回して、動かなくなった蜻蛉を捕まえた。








「ほら、サスケ」


「おおー」







すごいね。眼。俺も早く使えるようになりたいな。

サスケは蜻蛉を夕日にかざしながらゆっくと歩く。








「・・・・・そうだな」







このことは秘密だ、誰にも言うなこんな恥はありえない・・・・・。父の言葉が耳に甦る。







「肩車してやろうか」







その言葉にサスケは急いで俺の元に来る。

急いで走ったからつまずいてしまい、その拍子に蜻蛉を放してしまう。








「あーあー」







自由になった蜻蛉は二、三度弧を描いて飛んでいたが、やがてすぐに見えなくなった。

 
















年を増していくごとに、いやおうにも周囲の期待が高まる。

一族はもとより、木の葉の忍たちに自分の一挙手一投足を見られているような気がしていた。


暗部を率いるようになってからは、

父の異常なほどの期待に押しつぶされそうになったこともあった。


弟は誰に省みられることも無かった。

けれど弟は決してめげず、自分の出来うる限りの力でもって努力していた。


ただ、父に認めてもらいたい為、俺に少しでも近づきたい為に。

弟が努力し、それが無駄に終わるたびに、俺は弟に優しく接した。

それが哀れみだったのか同情だったのか今となっては思い出せない。


ただ、弟の目は怖かった。

一心に俺を慕いながらも、時々見せる“お前さえいなければ”そう思っている目が、怖くて仕方が無かった。


 








強い者は好きだ。










戦うことが全てだと思っていた。

愚かで弱い者など万死に値する。


奴らには何の価値もないと。













 

「兄さん今日は修行見てくれるって言った」







弟の目が俺を咎める。







「今日は用事があるんだ」







「兄さんはいっつもそういってみてくれない」







弟が拗ねて口を尖らせる。

俺が手招きすると嬉しそうに近寄ってきた。








「許せ、サスケ」







額を指で弾く。いつもの断り方だったが、弟は拗ねながらも、いつも笑って頷いた。

 











弟よ、強くなって俺を殺せ。


俺はお前にしか殺せない。


憎しみに生きる哀れな弟よ、どうかその手でー。












俺を殺して。

 



























父を殺すことに抵抗は無かったが、母を殺すのには少し迷った。

・・・・・・弟が泣くだろうと思ったからだ。

けれどすぐにそう思う必要は無いことに気づいた。


弟も殺さなければならない。本当ならうちはの中で誰よりも先に殺さねばならなかった。












「にいさああああん!!」












弟は血溜まりの中で腰を抜かして座り込んでいた。

瘧のように震えるからだで、何度も殺さないでと泣きながら懇願する。














「・・・・・・愚かなる弟よ。お前には殺す価値も無い」









月読で一族を殺した顛末を全て弟に見せてやる。









「いやだああ!兄さん、そんなのみせないで!」








哀れな弟は、白目を剥いて気絶する。








「サスケ・・・・・。俺はもう・・・・・人を殺したくなかったんだ」








弟の柔らかい髪をゆっくり撫でる。








「サスケ・・・・・」

































九尾を獲るために戻った里で弟に再会した。

憎しみに燃える瞳に、確かにうちは一族たる証が浮かんでいる。





良かったなサスケ。これでもうお前は愛される。俺もお前と対等に戦える。











「サスケ・・・・・」












一族をこの手で殲滅した。

人が人を殺す不条理でしか生きる術の無いこの世界で・・・・・・。















「サスケ」

 












誰よりも愛しているよお前を。

end